【 リタリン乱用 】
(改訂 08/06/05)
[リタリンの販売規制と徐放剤、コンサータの発売]
2007年10月26日、リタリンの適応症からうつ病が除外され、適応症はナルコレプシーのみとなりました。また、同日、リタリンと同じ成分(塩酸メチルフェニデート)の徐放剤、コンサータ(18mg錠、27mg錠)が認可され、適応症は、小児期における注意欠陥/多動性障害(AD/HD)とされました。リタリンとコンサータの両製剤とも、後日、処方できる医師、医療機関、調剤できる薬局がそれぞれ制限される3重規制が実施されることになりました。この事態を受けて、このページは、改訂が必要になりました。現在、全面的に書き換え中です→多忙のため、書き換えを断念しました。(08/05/22)
[薬物分類上の位置]
塩酸メチルフェニデート(methylphenidate hydrochloride; MPD)は、1944年に合成され、1957年にリタリン(Ritalin)の商品名で、Ciba社(ノバルティスファーマの前身)から発売されました。化合物名よりも商品名リタリンの方が一般に知られており、インターネットなどでも、もっぱら商品名が使われています。中枢神経興奮剤であり、アメリカの精神障害診断基準、DSM−W(1994)でも、物質関連障害の章のアンフェタミン様物質にメチルフェニデートが含まれることが明記されています。リタリンの中枢神経興奮作用はメタンフェタミンとカフェインの中間であるとされています。リタリン使用によって爽快感や多幸感が得られる場合があり、また食欲抑制作用があることから「やせ薬」として使用されることがあり、乱用依存につながる原因になっています。乱用によって覚せい剤乱用と同様の幻覚妄想などの副作用をひきおこします。リタリンは長期大量投与により耐性を生じますが、この耐性には、コカインやアンフェタミンとの交叉性があります。
このように、リタリンは薬理作用からは覚せい剤、アンフェタミン類に分類されますが、医療薬として処方される薬物であり、法律上も覚せい剤ではなく、向精神薬として扱われます。
リタリンの作用機序は、他のアンフェタミン類のそれと同じで、シナプス前部でのモノアミン類(ドパミンとノルアドレナリン)の放出を促進し、再取り込みを抑制することによって、神経伝達物質であるドパミンやノルエピネフリンの脳内シナプス間隙における濃度を上昇させ、その結果として脳の一部の機能を活性化すると推定されています。メチルフェニデートは内服1〜2時間以内に、血中濃度が最大となり、
4〜5時間後には作用がなくなります。不眠などの副作用を避けるために、1日1回朝食後または、1日2回朝昼食後に服用します。
[危険性と規制]
日本において、向精神薬は、その乱用の危険性および医療上の有用性の程度により第一種から第三種までの3種類に分類され、それぞれ規制内容が異なります。最も危険性が高い第一種向精神薬で一般に使用されているものは、リタリン、コノサータ
(塩酸メチルフェニデート)とアイオナール・ナトリウム注射用(セコバルビタールナトリウム)、モディオダール錠
(モダフィニル)だけです。
U.S. Drug Enforcement Administration (米国麻薬取締局)による薬物乱用の危険度表示では、リタリンはアンフェタミン、コカインなどと並んで、
“Schedule U”にランクされています。このランクは、危険性の高いものから順に5段階に分けた2段階目にあたるものです。リタリンは、医学的用途がある薬物であるが、使用量、使用目的、使用日の記録を保存しておかねばならない、と厳しく規制されています。
[日本での適応症]
日本では、2007年まで、うつ病や抑うつ神経症、ナルコレプシーが適応症とされてきました
。ナルコレプシーというのは、睡眠発作、情動脱力発作(強い情動によって突然引き起こされる数秒から数分の筋脱力)、入眠時幻覚や睡眠麻痺など特徴的な症状を呈する比較的稀な睡眠障害です。
リタリンは60ヵ国以上で販売されていますが、2007年時点では、うつ病患者への使用を適応症として認めてきたのは日本だけでした。1995年に軽症例が適応から除外され、1998年3月の薬効見直しでは、「症状が悪化する可能性がある」と、重症のうつ病患者への処方を禁じていますから、リタリンの適応となるうつ病は、「軽症でも重症でもないが、難治性または遷延性」のものに限られることになります。抗うつ薬(うつ病の薬)としてはほかに副作用の少ない薬剤が多数あるので、使用する必要はないと思います。うつ病への適応はやめるべきです。
うつ病にリタリンを使用した際に、一時的な快感をうつ病の改善と誤認する可能性があります。また、抗うつ薬にリタリンを追加併用した時に、リタリン投与によって抗うつ薬の血中濃度が上がるために、もともと治療域以下の抗うつ薬の効果が現れるのを、リタリンの直接的な薬効であると考える可能性があります。さらにまた、一度リタリンを投与し始めると、その投与量を減らすかまたは投与を中止した時に、離脱症状が出現して一時的にうつ状態や疲労感が強くなることがあります。このためリタリンの効果があったと誤解され、止められなくなる可能性があります。このような"みかけの"リタリン効果を区別して、リタリンの長期的な抗うつ効果があるかどうかを調べるためには、それなりの注意深い治験計画が必要でしょう。リタリンの潜在的な危険性と乱用の実態を考えると、現実にリタリンの抗うつ効果の明らかな患者がいるからというような治療者や患者の個人的体験から、うつ病患者への適応を認めるべきだと簡単に決めつけるべきではありません。
[ADHD治療薬として]
世界的にはリタリンの8割以上がアメリカで消費されています。アメリカでは注意欠陥/多動性障害(ADHD:Attention
Deficit Hyperactivity Disorder)に対してリタリンが広く処方されていますが、日本ではこの使用法は保険適用外です。筆者は、ADHD患者の一部(半数以上?)にはリタリンが有効であると思いますが、日本のリタリン乱用の実態を知っているだけに、保険適応拡大には全面的に大賛成ということはできません。成人ADHDの存在を主張する人々がいて、専門家内でもその結論が出ていない現状ではなおさらです。
[リタリンの副作用]
(1)常用量での副作用:不眠、食欲減退、動悸、高血圧、頭痛、胃障害(腹痛、嘔気、嘔吐)などがよく見られます。不眠に関しては、時に逆説的傾眠といって、服用後15〜30分頃にかえって眠気が強くなることがあります。このほか、視野のぼやけ、めまい、口渇、筋肉のけいれん、ふるえ、呼吸促迫などが見られることもあります。
(2)急性中毒症状:短期的に過剰服用すると不眠、食欲減退のほか、発熱、全身けいれん、不整脈、いらいら、瞳孔散大などが見られます。
(3)慢性中毒症状:リタリンを長期大量に飲み続けると不安や不眠が現れ、また幻覚妄想状態になります。リタリンは、いわゆる覚せい剤、アンフェタミン類に属する薬物であることを忘れてはなりません。
(4)離脱症状:数週間程度の連用でも、やめるとパニック状態やうつ状態になりやすく、疲労感や強い眠気、空腹感が見られ、時には不安、興奮、妄想や自殺念慮が生じることもあります。
(5)耐性:効き目が少なくなり、同じ効果を得るために使用量がどんどん増えることになりがちです。
(6)乱用、依存:習慣性のために、また離脱や耐性のために、乱用や依存症になり、やめられなくなります。
[リタリンの添付文書]
リタリン添付文書(08/05/11確認)には、使用上の注意‐重要な基本的注意の項目に、「連用により薬物依存を生じることがあるので、観察を十分に行い、用量及び使用期間に注意し、特に薬物依存、アルコール中毒等の既往歴のある患者には慎重に投与すること」と明記されています。
医師が添付文書の注意事項に従わず処方したことによって事故が発生した場合には、特段の合理的理由がない限り、医師の過失が推定されるという最高裁の判決(96/01/23)があります。
リタリンを処方する医師は、依存性という副作用にもっと注意して欲しいと思います。
また厚生労働省告示第99号(02/03/18付)に基づき、リタリンの投薬期間は1回30日間分が限度とされています。
[使用規制]
リタリン処方に関連した医療法違反の疑いで2007年9月に東京都内の2ヵ所のクリニックへの立ち入り調査が行なわれました。リタリン乱用に関連した一連のメディア報道、および世論の高まりを受けて、さらにMPD依存症による自殺症例などの報道などをうけて、厚生労働省は、矢継ぎ早に対策を打ち出しました。同年9月21日、厚生労働省は、病院と薬局にリタリンRの適正使用と処方箋のチェック徹底を求めるように都道府県に通知しました。同年10月26日には、リタリンの適応症からうつ病が除外され、適応はナルコレプシーのみとなりました。また、同日、リタリンと同じ成分、塩酸メチルフェニデートの徐放剤、コンサータが日本における初めてのAD/HD治療薬として製造・販売を認可されました。リタリンとコンサータの両製剤とも、適正に使用されるよう流通管理の実施が義務づけられ、後日、処方できる医師、医療機関、調剤できる薬局がそれぞれ登録され制限される規制が実施されることになりました。
[リタリン乱用の実態]
メチルフェニデートは医薬品ですが要処方薬です。乱用者仲間は、リタリンを「合法覚せい剤」とか「ビタミンR」と呼び、リタリン乱用者を「リタラー」と呼んでいます。医者をだまして手に入れる方法や他の入手方法を教えるようなマニア向けのウェブサイトまであります。リタリンは医薬品だが要処方薬であるため、乱用者は、ほとんどの場合、医療機関から薬物を入手しています。乱用者は、薬剤名を指定して処方を希望したり、うつやナルコレプシーの症状を訴えたりしてリタリンの処方を出してもらおうとします。また薬品庫から盗んだり、医療関係者から直接入手しようとしたりしています。
なお、「医者回り」によって複数の医療機関から投薬を受け、ストックした向精神薬を他人に譲り渡したり、譲り渡す目的で所持したりすると麻薬及び向精神薬取締法50条の16の規定に違反することになります。
この薬剤の危険性をあまり知らない医師もいます。医者が出しているから安全な薬だとは言えません。この薬剤の乱用は極めて危険です。医療関係者は薬剤の保管を厳重にし、乱用者や詐病(患者)に注意してください。
リタリン乱用の問題を、興味本位で乱用に走る若者、意志薄弱の乱用者、責任放棄の医師の問題とするのでなく、国は公衆衛生上の問題と位置づけて、教育、予防、依存症患者の治療に取り組むべきです。
2003年には、リタリン乱用問題が毎日新聞などマスメディアで取り上げられ、一時的に赤城高原ホスピタルへの問い合わせや受診患者が増える一方、それらの患者によると、医療機関のリタリン管理が厳しくなり、安易に大量処方する医師が少なくなったという情報もありました。しかし残念ながら、この効果は、1、2年しか続かず、その後、リタリン乱用は、ネット情報やネット販売などを通じて、ますます広がりつつあります。
2007年、リタリン乱用は放置できない事態となり、9月から、毎日新聞などで、一斉に乱用問題が取り上げられ、処方が規制ざれることになりました。[TOPへ]
[リタリン乱用の背景と最近の関連事件]
リタリンは、日本では1961年に薬価基準に登載されました。1997年ごろから売り上げが伸び、年平均5―12%の販売増を続けています。
1998年4月には、千葉県の女医が、長男(当時36歳)の受験勉強用に500錠を渡し、関東信越地区麻薬取締官事務所に麻薬取締法違反容疑で逮捕されました。
2002年春ごろからネット上で不正売買が目立ち始めました。
2002年8月、インターネット上で、リタリンなどの薬を売買しようとした女性(19)を愛知県警が麻薬取締法違反容疑で摘発しました。
2003年1月26日、リタリン(メチルフェニデート)乱用問題が毎日新聞の第一面と社会面に大きく取り上げられました。赤城高原ホスピタルのリタリン乱用症例と院長のコメントが紹介されています。記事は、リタリンについて、60カ国以上で販売されているが、うつ病への適応を認めているのは日本だけである。最近乱用者が増えている、と述べています(山本紀子記者、署名記事)。その後、リタリン問題は、約1ヵ月にわたってシリーズで取り上げられました。内容概要は以下の通り。【1】向精神薬:旧厚生省、リタリン中止要請無視 【2】向精神薬:「リタリン」覚せい剤代わりに服用 【3】向精神薬:インターネット情報を悪用 依存者[1月31日] 【4】向精神薬:かけもち受診で「リタリン」入手 チェック機能なく[2月5日] 【5】向精神薬:「秘薬」と大量処方、自殺も
[2月15日] 【6】リタリン乱用問題:薬物依存症専門病院、竹村道夫院長に聞く−うつ病への適応 すぐにやめるべきだ、過剰処方の医療機関には警告を[2月24日、関東地域のみ?]
2003年3月に、インターネット上のオークションサイトで競売が行われ、リタリン200錠が7万円で落札されたという事件があり、岐阜、愛知県警などは麻薬取締法や薬事法に違反する疑いが強いとみて、本格捜査に乗り出すことになりました。(当時のリタリンの薬価は、1錠11.9円、200錠で2380円)
2003年10月2日、NHK-TVで、リタリン(メチルフェニデート)乱用問題が取り上げられました。番組では、30代のリタリン乱用女性と、リタリン乱用の果てに自殺した大学生のお母様の話、その大学生の求めに応じてリタリンを処方し続けた医師の電話インタビューがありました。そしてそういう薬物乱用者の治療場所のひとつとして赤城高原ホスピタルの紹介があり、院長(私、サイトマネージャー)の「リタリンが乱用薬物であるということを知らずに医師が対応すると、乱用に手を貸すことになる」というコメントが取り上げられていました。(レポーター、工藤典子さん)
2003年5月20日、兵庫県宝塚市の公立病院医師(40)が、カルテを不正に書き換えるなどして過去1年3ヵ月間にリタリン約5900錠を入手し、服用していたとして、懲戒免職処分になりました。
2003年6月25日、東大病院医師が同僚医師のパスワードを不正使用するなどして、過去2年間で約40回にわたり向精神薬「リタリン」約2000錠、「ハルシオン」約400錠を詐取したとして逮捕されました。休職中の同僚の名前を使用したため、不正が発覚しました。
2003年8月23日(毎日新聞)、神奈川県の男子大学生(25)がリタリン乱用から薬物依存症になり、2003年初めに服薬自殺しました。手記に「頼めば処方せんなしで大量に出してもらえた」と書き残しており、母親(55)は「自殺未遂後、主治医に投薬をやめてほしいと訴えたのに、なぜ薬を出し続けたのか」と憤っています。このクリニックの院長は「私の判断が甘かったかもしれない」と話しています。
2004年1月28日、NHK-TV、クローズアップ現代で、リタリン(メチルフェニデート)など処方薬乱用問題が取り上げられました。「"処方薬"がやめられない」(NO.1856)。赤城高原ホスピタル院長が取材に協力しています。
2004年2月3日(火)、日本テレビ、「今日の出来事」で、リタリン乱用問題が取り上げられました。番組では、リタリン乱用、依存の現状、幻覚などの副作用のある症例が紹介され、安易にリタリンを処方する医師、病院処方では、1錠20-30円のリタリン錠剤が、ネット上で600円で売買されている現実、などが問題とされていました。また背景として、精神科クリニックの急増が関与しているのではないかという指摘がありました。
2004年3月29日、慢性疲労症候群の疑いのある引きこもり男性患者にリタリン常用、乱用者が増えていることが報告されています。(神戸新聞、"「ひきこもり」で向精神薬誤用多発”(08/05/11確認))
2005年2月22日(共同通信)、日本薬剤師会の自治体アンケート調査によると、2001年からの3年半に処方せんを悪用した向精神薬不正入手が少なくとも30都道府県で128件ありました。薬の種類ではリタリンが48件、ハルシオンが37件とこの2薬剤が乱用薬代表でした。
2006年1月13日、東京都町田市でリタリンの乱用で幻覚妄想状態となった男性(42)が義父の口の中に木工用ドリルを突き刺して殺害、さらに部屋内に火をつけ、自宅約40平方メートルを焼くという事件がありました(後日、報道)。2007年7月、東京地裁八王子支部は「リタリンの副作用で善悪を識別する能力が欠如していた」として、無罪と判決しました。検察側が控訴しましたが、2008年3月10日、棄却されました。
2007年6月28日、熊本県警は、ミクシィに不正アクセスし、向精神薬「リタリン」を違法に販売(1錠430円)したとして、横浜市青葉区の女性(24)を逮捕しました。ミクシィには「リタリン」のほか、薬物関係のコミュニティが多数存在することが指摘されています(熊本放送)。同年10月5日、有罪判決(熊本地裁)がありました。
2007年7月4日、「リタリン」をネット販売した容疑で、札幌の女性(24)が逮捕されました。全国230人に350万円分売りさばいたということです。あるケースでは、1錠650円でした。(07/07/05毎日新聞)
2007年8月2日、拘置中の男の要求に応じ、医師の処方量を超えるリタリンを服用させたとして、警視庁は池袋署の巡査長ら関係者7名を処分した。(07/08/03日経新聞)
2007年9月18日、東京都と新宿区保健所が医療法違反(不適切な診療)の疑いでTクリニック(東京都新宿区)への立ち入り検査に踏み切りました。また同日、名古屋市の男性が19歳からリタリンを服用し始め、MPD依存症となり、05年1月に25歳で自殺したことが報道されました(毎日新聞)。同日から、毎日新聞による、「リタリン乱用防止」キャンペーンが始まりました。2003年1月のキャンペーに次ぐ第2弾です。前回のキャンペーンよりも、長期にわたり、徹底したものです。同日から連日、関連記事が掲載され、事件の進展とともに、他のマスメディアも関連記事を伝えるようになりました。
2007年9月21日、厚生労働省は、病院と薬局にリタリンの適正使用と処方せんのチェック徹底を求めるように都道府県に通知しました。製造販売元の「ノバルティスファーマ」が適応症の限定を検討していることから、乱用者が偽造の処方せんで購入を図る恐れがあるため緊急に注意を促したものです。
2007年9月21日、東京都と江戸川保健所は、リタリンを不適切に処方していたとして、江戸川区内のクリニックを医療法違反(不適切な医療の提供)の疑いで立ち入り検査しました。同年10月31日、同クリニック院長(67)は医師法違反(無資格医業)容疑で逮捕され、2008年2月4日、有罪判決(東京地裁)を受けました。
2007年10月2日、「リタリンで薬物依存が起きている問題で、厚生労働省と製造販売元のノバルティスファーマ社(東京都港区)は、リタリンを処方できる医師や医療機関を限定するなど流通を規制する方針を固めました。(2007年10月03日、朝日新聞)
2007年10月17日、リタリン製造・販売元の「ノバルティスファーマ」(東京都港区)は17日午前、適応症からうつ病を削除するよう、薬の安全性を審査する独立行政法人「医薬品医療機器総合機構」(千代田区)に正式に申請しました。厚生労働省の薬事・食品衛生審議会の部会は同日、リタリンの効能からうつ病を削除することを認めました。
2007年10月26日
リタリンの適応症からうつ病が除外され、ナルコレプシーのみとなりました。また、同日、リタリンと同じ成分(塩酸メチルフェニデート)の徐放剤、コンサータ(18mg錠、27mg錠)が認可され、適応症は、小児期における注意欠陥/多動性障害(AD/HD)となりました。リタリンとコンサータの両製剤とも、後日、処方できる医師、医療機関、調剤できる薬局がそれぞれ制限される3重規制が実施されることになりました。 [TOPへ]
2007年10月31日、警視庁生活環境課は、患者へのリタリンの処方を巡り、東京都江戸川区のクリニック院長(67)を医師法違反(無資格医業)容疑で逮捕しました。11月21日、同院長は起訴され、2008年2月4日、有罪判決(東京地裁)を受けました。
2007年11月16日、リタリンの処方せんを医師免許のない職員が出していたとして、警視庁生活環境課は、東京都新宿区歌舞伎町のクリニックや関連先など計7ヵ所を医師法違反(無資格医業)容疑で家宅捜索しました。同クリニックは、処方を巡る苦情が行政機関に殺到するなど、リタリン乱用問題の象徴的な医療機関とされています。
2007年11月下旬、東京都八王子市で、薬局が荒らされリタリン約150錠が盗まれていたことが後日判明しました。同年12月、強盗容疑で逮捕された大学4年生(21)が、窃盗容疑でも逮捕、起訴されました。リタリン乱用が犯行に影響したことが疑われています。
2007年11月29日、 インターネットを利用したリタリン乱売事件で、仙台地裁は、薬事法違反(医薬品無許可販売)罪などに問われた札幌市の女性被告(25)に有罪判決を言い渡しました。
2007年12月3日、リタリンをめぐり、難治性うつ病などの患者ら5人が、製造販売元の「ノバルティスファーマ」が厚生労働省の指示に従って流通を厳格化しないよう求める趣旨の仮処分を東京地裁に申し立てました。後日却下されました。
2007年12月4日、リタリンを製造・販売する「ノバルティスファーマ」(本社・東京都港区)は、リタリンを処方できる医師を専門医などに限定し登録制にする流通管理策を発表した。08年1月1日から施行される。この結果、1月以降はリタリンは唯一の適応症となるナルコレプシー(睡眠障害)だけに処方でき、うつ病などには一切使えなくなった。
2007年12月8日、東京都内の男性歯科医師が2007年11月以降、偽造した処方せんを使って都内の調剤薬局から向精神薬「リタリン」を不正に入手した疑いがあることが、都薬剤師会の調べで分かりました。被害を受けた薬局は警視庁に通報しました。2008年1月9日、神奈川県警幸署は東京都渋谷区の歯科医師(43)を詐欺容疑で逮捕しました。2008年5月20日、有罪判決(横浜地裁川崎支部)がでました。
2007年12月18日、函館地検は、処方箋をコピーして調剤薬局からリタリンを不正に入手したとして、有印私文書偽造・同行使と詐欺の疑いで、函館市の容疑者2名(46、34)を逮捕しました。
2008年3月7日、東京都渋谷区の薬局に男(29)が押し入り、薬剤師の女性に包丁を突きつけてリタリンを奪い逃げようとしましたが、通報を受けて駆けつけた警察官に強盗の現行犯で逮捕されました。
2008年5月19日、向精神薬「ベタナミン」を不正入手したとして、宮城県石巻市の無職男(30)が麻薬及び向精神薬取締法違反の疑いで石巻区検に書類送検されました。ベタナミンは、リタリンと同様の精神刺激剤で、乱用の可能性が危惧されています。男は、ベタナミン不正入手を繰り返していたとされています。
2008年6月5日、警視庁生活環境課は5日、東京新宿区歌舞伎町の診療所の元院長(38)を医師法違反(無診察治療)容疑で書類送検しました。この診療所は、リタリン乱用問題の象徴的存在。2007年1年間で、102万錠のリタリンを処方したとされる。この数字は全国1で、突出した大量のリタリン処方。
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[赤城高原ホスピタルのリタリン乱用患者]
赤城高原ホスピタルでは、この18年間(1990-2008年)に100名以上のリタリン乱用者が受診しました。外苑神経科(東京都渋谷区)にも多数のリタリン乱用者本人の受診、家族の相談がありました。その乱用実態には、以下のような特徴が見られました。
(1) 乱用者の男女比はほぼ同数、年齢は10代後半から中年期までいました。
(2) 若年者では、多重嗜癖者が目立っていました。ここで多重嗜癖というのは、広義の嗜癖行動を重複して持つ患者を意味します。たとえば、摂食障害+物質乱用、アルコール依存症+薬物乱用、自傷行為+薬物乱用などです。
(3) 乱用薬物がリタリンだけというのはむしろ少数派で、多剤乱用者が半数以上でした。同時使用薬としては、処方薬(抗不安薬、睡眠薬など)、市販薬(ブロン、トニンなど)、いわゆる脱法ドラッグ(広義)が多いようでした。
(4) 最初から興味本位にリクレーション感覚で積極的にリタリン入手を試みたという患者はむしろ少数派で、リタリン乱用患者も、最初は軽うつや眠気などの治療薬として、医師から処方され受動的に服用を始めた例の方が多数派でした。
(5) 当院入院前には、充分量のリタリンを入手するために多数の医者回りをしている患者がほとんどでした。安易にリタリンを処方していると思われる医療機関がありました。それらの医療機関では、抑うつ感の訴えや患者の求めに応じてリタリンを処方していました。
(6) 若年者では、インターネットで薬物情報や入手方法の情報を得ている患者が見られました。合法ドラッグと同じように、インターネットを通じてリタリンを入手している患者もいました。
(7) リタリン大量摂取による急性中毒のけいれんを起こした患者がいました。
(8) 少数ながら、スニッフィング(粉末にして鼻から吸引)の患者がいました。→近年、増えてきたようです。ネットでそのような知識を入手する傾向が出てきたためかもしれません。
(9) 過去に覚せい剤(メタンフェタミン)を乱用した患者が数名いました。
(10) ADHDに対して処方されたリタリンが乱用のきっかけになったという患者は2004年までには1名のみでした。2005年頃から成人のADHDという診断でリタリンを処方されている患者を時々見かけるようになりました。
(11) ADHDのために前医からリタリンをもらっていたと嘘を言ってリタリンを入手したという患者が1名いました。
(12) 未記入の処方箋(とくに院外処方箋)用紙を盗んだり、記入済みの処方箋のカラーコピーを撮って何回も使用したり、処方箋の文字を書き換えたりする手口でリタリンを不正に入手した患者(偽患者?)がいました。
(13) マスメディアでのリタリン乱用問題の報道により、2003年頃から、安易にリタリンを処方する医療機関が少なくなったようです。しかし、その効果は1年程度しか続かず、2005年頃からリタリンを安易にだす一部の医療機関が目立ってきました。
(14) リタリン服用中に交通事故を起こす例が見られました。
(15) リタリン乱用中だけ、万引をしていたというケースを2例診ました。どうも、スリルを求める衝動的なタイプの万引のようです。
(16) リタリン乱用・依存による受診者の症状としては、不眠、不安、焦燥感、興奮、口渇、食欲不振、動悸、頻脈、高血圧、体重減少、頭痛、胸の痛み、不整脈、支離滅裂な行動、自殺念慮、幻覚、妄想などが見られましたが、多剤乱用者が多いため、これらの症状が純粋にリタリン乱用や離脱症状なのかどうかは不明です。 [TOPへ]
[海外の関連情報]
スウェーデンでは、乱用が広がったために1968年に市場から排除されました。
アメリカでは、薬物乱用治療施設に入所する未成年者の30-50%がリタリンを使用していると言われます。インディアナ州では、学校敷地内で生徒が他の生徒にリタリン1、2錠を渡しただけで、重罪になります。
ドイツでは、1972年、カナダでは1980年代、アメリカでは1983年にうつ病がリタリンの適応症から除外されました。
[リタリンで、突然死?]
米国食品医薬品局(FDA)の諮問委員会は2006年2月9日、スイス・ノバルティス社の「リタリン」(一般名・塩酸メチルフェニデート)などの注意欠陥多動性障害(ADHD)治療薬に、心臓血管障害の危険を高める可能性があるとの警告表示を付けるようFDAに勧告しました。同委員会によると、1999−2003年にリタリンや同成分の薬の服用者、少なくとも16人が死亡したとされています。アメリカでは、この勧告に対し賛否両論の議論が巻き起こっています。反対論は、リタリン処方を受けている人の数や、それによって恩恵を受けている人の数を考えると、この数字は高くない、というもの。
[カナダ保健省、リタリンの警告度を引き上げ]
カナダ保健省は、注意欠陥多動性障害(ADHD)の治療薬、リタリン、アデロール、コンサータおよび同様の薬剤のラベルに、2006年4月からさらに厳しい警告を追記することを発表した。(06/03/24) [TOPへ]
[モディオダール、ベタナミン乱用の危険性] (この項目の改訂 07/11/26)
リタリン乱用問題の報道やリタリン処方の制限(2007年10月)に伴い、早くも、モディオダールやベタナミンの乱用患者が赤城高原ホスピタルや外苑神経科に登場してきました。
モディオダール(Modiodal)は、化合物、モダフィニル(Modafinil)の商品名です。日本では、2007年1月に製造承認され、同年3月から販売されています。製造販売元は、アルフレッサファーマ株式会社、Cephalonが提携、販売元は田辺三菱製薬株式会社になっています。1錠が100mgです。1日1回、200mgを朝に服用するのが原則です。最大投与量は300mgです。2006年09月11日に向精神薬に指定されています。ナルコレプシーに伴う日中の過度の眠気だけが適応症で、うつ病や抑うつ症状は適応外です。使用に当たっては、米国睡眠医学会が編集した睡眠障害国際診断分類(ICSD)でナルコレプシーと確定診断する必要があるとされています。海外では睡眠時無呼吸症候群(SAS)や注意欠陥多動性障害(ADHD)などの治療に使用されている例もあり、日本でも適応拡大を目指して、研究が行われています。連用により薬物依存が生じるおそれがあると使用説明書に書かれています。国際オリンピック委員会の指定する禁止薬物リストに含まれています。いわゆるドーピングの対象薬です。
1錠が398.10円と薬価が高いのが特徴です。リタリン1錠が11.20円であることを考えるといかにバカ高いかがわかるでしょう。
次にベタナミン(Betanamin)はペモリン(Pemoline; Pemolinは間違い)の商品名で、10、25、50mg錠があります。25mg錠と50mg錠は1981年9月から販売開始、10mg錠は2006年2月から販売開始されました。製造販売業者は、株式会社三和化学研究所です。軽症うつ病、抑うつ神経症とナルコレプシーおよびナルコレプシー近縁傾眠疾患が適応症ですが、うつ病の適応は10mg錠のみで、容量も10−30mgまでです。ナルコレプシーには10、25、50mg錠が使用可能で、容量は200mgまでです。
ペモリンは、一部の患者で肝障害を起こすことが知られており、1975年にFDA(米国食品医薬品局)が認可をして以来、21例の肝障害ケースがあり、このうち13例では肝臓移植を要するか死亡にいたったということです。このため2005年、FDAは認可を取り消しました。但し、回収の指示はありませんでした。アメリカの製薬会社Abott
Laboratories はペモリンの代表的商品、サイラート(Cylert)の製造販売業者ですが、2005年3月、経済的理由から同商品の製造を中止しました。
日本では、ナルコレプシーの治療に対する医薬品が極めて限られていること、国内における重篤な副作用報告がないこと、などの事情により、肝障害の危険性に関する注意喚起が行われたのみで、認可取り消しなどの処置はとられませんでした。重大な副作用としては、この肝障害のほかに薬物依存惹起の危険性があげられています。
薬価は、10mg錠が15.40円、25mg錠が35.70円、50mg錠が67.30円です。 [TOPへ]
[文献・資料]
佐藤裕史、鈴木卓也、一瀬邦弘: 抗うつ薬の増強法としてmethylphenidate は妥当か −薬理学的問題点と診療上の疑義について−.
精神医学. 45(2):191-199, 2003.
(うつ病へのリタリン投与を検討した佐藤裕史医師らは、安易なリタリン処方に警鐘を鳴らし、リタリンの使用指針として、投与期間は3週間までに限ること。入院患者を原則とすること、などの条件を提示している)
風祭 元: Methylphenidateについての精神医学的問題点 佐藤らの試論を読んで. 精神医学. 45(5):554-555, 2003.
(上記の佐藤裕史医師らによるリタリンの使用指針に関して、前都立松沢病院長の風祭元医師も全面的に賛成であると述べている)
岸本英爾: Methylphenidate(Ritalin)による精神症状の臨床的特徴と治療. 臨床精神薬理.
6(9): 1131-1134, 2003.
(日本の依存症専門病院の多くでは、リタリンが、単剤としては、現在、最も乱用、依存が多発する医薬品である。リタリンが最近軽症うつ病などに安易に使用され、容易に依存に陥って精神科に幻覚・妄想状態で受診する患者が多い、と報告している)
毎日新聞 2003(平成15)年2月24日 朝刊 東京版
Massello W 3rd, Carpenter DA.: A fatality
due to the intranasal abuse of methylphenidate
(Ritalin). J Forensic Sci. 1999 Jan;44(1):220-1.
(リタリンのスニッフィングによる19歳の死亡例の報告) [TOPへ]
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文責:竹村道夫(初版:03/02/26)
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