【 再発予防 : 自助グループが決め手 】            

赤城高原ホスピタル(改訂: 00/12/12)


 アルコール依存症のSさん(38歳)は、主治医に言われて、嫌々ながらも、3カ月前から、週に5日、AAという自助グループに出席していた。その日、会場では50歳過ぎの男性が、AAに初めて来るきっかけになった出来事を回想して話していた。

 給料前のある日、彼は飲み代欲しさに会社の同僚の机の中の金を黙って拝借した。翌日同僚がそれに気づき、彼が疑われたが、彼は「知らない」と言い通した。しかし彼は、そんな自分に嫌気がさし、酒をやめるためなら何でもしようという気になったのだった。15年前のその事件を、彼はまるで昨日の事のように克明に覚えていた。「あの日、AAに来た時から自分の生き方が変わった」という男の声が涙でうるみ、数人の出席者がハンカチを取り出した。

 「なんだ、この連中は泥棒集団か。ひどい奴らだ」。

 そう思って、Sさんは、ぐっと胸をはってその場の20人ほどのメンバーを見下ろした。その瞬間、Sさんは、もうすっかり忘れていたある出来事を思い出した。

 数カ月前、その日に知り合ったばかりの泥酔状態の飲み仲間を介抱する時、Sさんは、仲間のポケットから一万円札を2枚抜き取って、その金で飲んでしまったのだ。
「盗んだのじゃない。返すつもりだったんだ。それにあれは介抱代だ」。

 いつもの習慣で、とっさに幾つかの言い訳が頭に浮かんだ。しかしどれも自分自身を納得させることはできなかった。最後に「いずれにしても、おれはあの時、酔っていたんだ」と自分に言い返したところで、Sさんは自分の言葉の醜さに愕然とした。足がすくみ、体全体がブルブル震えだし、涙がとまらなかった。神など信じたことのないSさんが、生まれて初めて自分より大きな存在に「許してください」と祈った。酒に溺れ、何十年も眠っていたSさんの感性は、その時、目覚めたのだ。そのSさんも、今では古手のAAメンバーになり、この体験を後輩に語り伝えている。

 アルコール依存症の長期的予後を決定するのは、自助グループへの参加である。AAは、世界134カ国に200万人以上のメンバーを擁する世界最大規模の自助グループである。メンバーになるために必要なことは、酒をやめたいと思う事だけ。名前も住所も名乗る必要がなく、会費も要らない。このほか、日本には、会員制、会費制、会長制の断酒会があり、AAと共存している。また、酒害者の家族や友人たちのための自助グループもある。 


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AKH 文責:竹村道夫(初版: 99/1) 


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