【 アルコール依存症維持システム、イネイブラー(支え手)、悪循環を打ち破る 】

赤城高原ホスピタル(改訂: 00/12/12)


 若くして夫を事故で失ったKさんは、1人息子に期待をかけて、女手ひとつで、家庭を維持してきた。その息子が成人してアルコール依存症になった。40歳になるのに、結婚せず、定職を持たず、酒びたり。最近では、酔って暴力をふるうこともしばしば。

 周りからは、「親が甘すぎるから」とか、いろいろ言われるが、Kさんとしては、これでも20年間、精一杯やってきた。脅したりすかしたり、泣いて頼んだり、何度も入院させたり。万策尽きて、アルコール専門医に相談した。しかし説明を聞いてKさんは、わが耳を疑った。担当医師は「息子さんも病気だが、あなたも病気だから、息子さんのことは本人に任せて、なるべく早くあなたが入院したほうが良い」というのだ。そういわれると、確かに不眠症だし、いつも不安だし、時々死にたくなるし、息子に蹴られた腰が痛むし、専門医の言うことではあるし、何よりも他のことはすべてやったのに効果がなかったので、Kさんは、周囲の大反対を押し切って、数日後に入院した。途中経過は省略するが、2年後の現在、息子は酒をやめて、就職して1年になる。Kさんは、アルコール症者の家族や友人のための自助グループで新しいメンバーを助 けて活躍している。

 アルコール依存症者は、1人で長期にわたって飲み続けることはできない。逆にいうと、長期に飲み続けている依存症患者の周りには、「飲み続けることを可能にしている人」がいることになる。この人を「イネイブラー(Enabler)」という。イネイブラーは、自分が関与することで、結果的には本人の自立と責任性を彼らから奪って、問題の解決を遠ざけている事には気づかず、患者の飲酒問題を手放すことをしないことを患者への愛情だと誤解している事が多い。

 実際には、アルコール依存症患者と周囲の間には、ある種の悪循環が存在している。たとえば、酒をかくしたり、患者を子供扱いしたり、また不始末のしりぬぐいをしたりする家族は、そのことでかえって、本人が家族の目を盗んで飲みつづけるように仕向けてしまう。あるいは見て見ぬふりをする家族は、大っぴらに飲むことを許してしまう。これを「アルコール依存症維持システム」という。この悪循環から抜け出すには、周囲の人が自分たちの無力を知って、外部の援助システムと結びつきながら、飲酒問題の解決責任を本人に返すことが必要だ。Kさんは、自分自身の専門病院への入院というちょっと過激だが一番確実な方法でそれを 実現したのである。


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AKH 文責:竹村道夫(初版: 99/1) 


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